裏紙

書いたり消したり

火村英生が吸っているのは本当にキャメルなのか

2月21日追記
・パッケージをくしゃっと潰すシーンが複数あり、ソフトパッケージとボックス両方が存在している可能性が高くなりました。時系列で並べる必要があるかもしれません。
・ドラマ5話で登場したタバコはDESERTの文字がキャメルと似たフォントで書かれたソフトパッケージで、地色はJTのマイルドに似たグラデーション、柱の図案は無し、というRJRと初代JTイメージの混合のようなものでした。

注意!3話に間に合わせようと思って低タールとメンソールの裏が取れないまま上げています。訂正するかもしれません。

有栖川有栖による作家アリスシリーズ(探偵名で火村シリーズ)が「臨床犯罪学者 火村英生の推理」というタイトルでドラマ化。
実写化されると原作読者はいろんな所が気になるもので、このドラマも原作との相違点を挙げるツイートも多い。
その中で吸っているタバコがキャメルではないと指摘するものが度々ある。

火村のお気に入り銘柄はシリーズ最初の「46番目の密室」から最新作の「鍵のかかった男」までキャメルとされている。しかし両者の歴史を追いかけると、そもそも火村が作中で吸っているのは何なのか?という疑問が生じる。キャメルについて、火村英生登場から25年あまりの変遷を追ってみた。


結論から言うと、火村の吸っているキャメルは特定の箱を出して正解と言える設定ではない。しかしドラマに登場する箱はどのレギュラー品キャメルとも一致しない。


以下キャメルを特定できなかった過程とつじつまを合わせたいがための妄想。

日本国内におけるキャメルの歴史と作品内での扱い

詳しくはwikipediaで。
wikipedia:キャメル_(たばこ)

①1992〜2003 身近になった洋モク

第1作である「46番目の密室」出版時は米R.J.レイノルズ(以下RJR)が製造販売していた。「46番目の密室」での火村が成人したのは1980年ごろ、まだ輸入たばこには関税がかけられ国産より高価であった。その後関税撤廃で国産並み価格になり、火村も貧乏学生ではなくなった。作中の時代的にも喫煙シーンは多い。

②2003〜2011 JTIキャメル

作品では「白い兎が逃げる」の頃に日本たばこ産業(以下JTI)が日本向け製品の製造を開始。キャメルは国際旗艦ブランドの1つに位置付けられたが、喫味が大幅に変わりファンは離れた。
この変更に関して作中で特に言及はない。社会情勢を反映して、喫煙するシーンは減っていく。

③2011年〜2013年夏 日本国内における空白期間

東日本大震災で日本国内のたばこは大打撃を受け、JTは一部銘柄を販売終了。その中にキャメルも含まれていた。
JT 東日本大震災による当社グループへの影響について(最終報)
最後のページ別紙2に廃止銘柄一覧。
http://www.jti.co.jp/investors/press_releases/2011/pdf/20110512_03.pdf
しかし、「雛人形を笑え」初出2013年4月、執筆時期を想定しても完全に空白期間の作品だがキャメルは登場する。

④2013年夏〜現在(2016年)新しいキャメル

JTIがドイツで製造している欧州向け製品の輸入販売が始まる。このとき販売が始まったものは2種類。全国で入手可能なブラック・ホワイトと販売範囲が限られ①の時代に近いとされるナチュラルである。
2013年8月キャメルブラックとホワイトが関東で先行販売
http://www.jti.co.jp/investors/press_releases/2012/1217_01.html
2014年12月一部エリアでナチュラルの販売開始
http://www.jti.co.jp/investors/press_releases/2014/1125_01.html

現在のキャメルが購入できる店舗
https://www.jtid.jp/map/

どう見ても問題なのは③の期間である。また、読者の年代や読んだ時期によって、①と②どちらでイメージするかが異なることは想像できる。④にあたる作品はまだ少ないが、現行キャメル愛飲者であればイメージを持ちやすいだろう。

銘柄の絞り込み

タール量について※

貰いたばこに「低タールだな」とケチをつける場面があることから、ここではタール量の多めのラインを選択していると考える(各時代のライトを除外)

アリス(語り手)によって語られないもの※

アリスはたまに火村のタバコを貰っているが、残念ながら味について言及はない。他の人物に関して、メンソールだと書くことがあるので、特に書かれていない限り火村のキャメルもメンソールではないと思われる。(JTIメンソール除外)

パッケージについて

①の時代はラインナップが多いが、「ダリの繭」でボックスを放り投げたと書かれているためボックス入りと考える。また、揺れはあるが概ね箱と書かれていることもソフトパッケージの可能性を下げている。
しかし、マイルドもフィルターも、ボックス入りは「46番目の密室」発表年と同じ1992年の発売のため、執筆時期を考えると発売より前のはずである。しかし、1988年から販売されているライトボックスとした場合、小道具として銘柄を指定しているのにあえてライトを選ばせるだろうか?という疑問が残る。
「46番目の密室」は火村の登場後最初の一服など銘柄が出ていないものも多い。トレードマークとしての扱いはまだ無かったのだろうか?「46番目の密室」は単行本からかなりの書き換えがあったということだが(火村の関西弁セリフがあったとか)手元には2009年版文庫しかないので確認ができない。

販売エリアについて

①と②は全国展開だったが、④のナチュラルは2016年1月現在京都で販売していない。順当に考えるとキャメルブラックとなる。しかし大阪に顔を出した時に買いだめも不可能ではないと思われる。ナチュラルが①に少し近いといわれているので完全に除外できない。

最終絞り込み結果

①はフィルターかマイルドのボックス。この2種からさらに絞り込むのは難しい。上にあげた通り「46番目の密室」ではこの2種が条件に当てはまらずライトの可能性が高くなるが、あえてキャメルのライトを選ばせることはないだろうと考え「46番目の密室」だけが例外であるとした。46番目はソフトパッケージなんだろうか。

②はフィルターとマイルドでタールとニコチン量がかなり違うことから、フィルターではないかと思われる。

③は謎。

④はブラック(ただし喫味について①期と整合性を取ろうとするとナチュラルとなる)

シリーズを通じてどういう銘柄選びをしているのか

さて、これまで火村が吸っているキャメルとは何なのか、キャメルの販売時期で区分して考えてきた。シリーズを通して考えた時どうなるか。

仮説1:作中年代で販売されているその時々の国内向け「キャメル」

最もありそうだが、③のキャメルは何か、という重要な問題が発生する。個人輸入外国籍の友人たちのツテでアメリカ国内向けRJR製品またはその他海外流通品を入手していたと考えるしかない。
この場合喫味に対してこだわりが強くないことになる。また④は京都で販売していないナチュラルが除外できるだろう。

仮説2:RJR社によるキャメルを吸い続けている

2-1)RJR社キャメルを②以降個人輸入などで入手し続けている
2-2)キャメルも人物と同じ頃時を止めている

2-1)はキャメルに対して非常に強いこだわりを持つと考えた場合。ただし②以降の期間で、近くの店で購入する場面が問題となる。手元になければそこらで違うものを買うという解釈が妥当か。また、入手量としてかなり少なくなるのではないか。もともと国内販売に依存しないので③の時期も継続して入手可能。

2-2)はファンタジーになってしまうが、アリスのブルーバードと同じである。
シリーズの人物が年をとらなくなったのは1994年ごろ。このときキャメルも同じく時を止めていれば、製造元の変更もなく、販売終了もせず、どの作品においても「キャメル」を吸っていることが不自然ではない。アリスのブルーバードも最新作「鍵のかかった男」においてまだ走っている。個人的にはこの説を採りたい。

結論

特定の1つの銘柄を吸い続けているとするにはどれにしても強引なこじつけが必要。
替えているとしても空白期間を埋めるのにやはりこじつけが必要。
サザエさん方式はロマン。キャメルもブルーバードもロマン。

外見について

最後に、発端となったドラマでキャメル吸ってない問題について、パッケージとシガレットの見た目を検討する。
余談だがキャメルはパッケージデザインも愛され、様々なバージョンがある。これまでだらだら述べたように、キャメルとはこれだと言えない限り、候補は絞れても正解はない。
パッケージコレクターのサイトはこちら。呆れるほど多い。
http://www.camelcollectors.com
日本国内のものだけでこれだけある。
http://www.camelcollectors.com/catalog.asp?pais=Japan
シガレットについては④のホワイトとナチュラルライトのみチップペーパーが白く、他はコルク柄である。

①のRJRキャメル
砂色のベースにラクダの絵が描かれ、紫系の色で描かれた柱の縁取りがある。仮説2-1)を採用すると、2008年ごろアメリカ国内向けパッケージが変更に伴い見た目が変わっていることになる。
②JTIキャメル
枠囲みに小さめイラスト。砂色の箱といった印象。
④現行のキャメル
ブラックとホワイトのパッケージは黒と白。ナチュラルとナチュラルライトは茶色系の2色。ラクダ部分は切り抜き。

ドラマ1話冒頭で映っているのはソフトパッケージ、オレンジ系グラデーション。チップペーパーは茶系。色と側面の湾曲させたロゴはフレーバーもののようなパッケージに思える。チップペーパーの色は近い。これに該当しそうなレギュラー商品は無い。残念ながら、キャメルでは無さそうだ。
なぜ近年少なくなったソフトパッケージを小道具として採用したのかはわからないが、RJRキャメルの時代はソフトパッケージ2種、特にプレーンフィルターのキャメルフィルターがキャメルらしいのだというこだわりを持つ人も少なくなかったようだ。そういうイメージが選んだ人にもあったのかもしれない。

キャメルではないと言うのは簡単だが、本当に何を吸っているのかを突き詰めると、ビジュアル面での正解は非常に難しいと思われる。

実は震災後キャメル販売終了の情報から新しい情報が入っていなかったので、今回調べて復活を知ることができたのは嬉しいことだ。ちなみに地元にはブラックとホワイトの販売店さえ1店舗しかないので、まだ現物は未確認である。非喫煙者なので見ても吸えないのだけど。


※冒頭にある通り低タールとメンソールについて記憶頼みで出典を拾えていないので、ひょっとしたら書いてなかったかもしれない。もし書いてなかったら、さらに候補銘柄が増えてしまう。キャメルと言ってもいろいろあるじゃないか、ということには変わりがない。

以上、せっかく調べたものをもったいなく思った長文。